≪W≫と呼ばれる青年の悲劇
その食卓は冷え切っていた。
彼は辟易としていた。両親に対してあまり良く思っていなかった。遅れてきた反抗期、というわけじゃない。両親の理想を押し付けられるのに耐えきれなかった。自分は嫌だと言ってるのに。
「……」
「……」
「……」
誰も喋らない。それがこの家族の日常。
そんなある日のこと。彼の母親が急に言い出した。
「なんで怒ってんの?」
彼はいつものように喋らなかった。
「何様だよ」
「……」
「不機嫌な顔するな!」
「私が喋らなければいいのか!」
彼は内心「は?」と思ったがそれを言ったら余計に怒るので変わらず無視をした。
「う、う、う……」
そのうち、母親は泣き出してしまい部屋にこもってしまった。
「なんだよ……」
─────────
「あれ、母さんは?」
そう父親に問いかけた。
「出て行ったよ」
「いつ?」
「今朝だ」
「えっ!今朝!」
「……なんて日だ!!!」
母親の行方は誰も知らない。